ピアニスト清塚信也が、邦人クラシック系男性ピアニストとしては初めてとなる、日本武道館での公演「KENBANまつり」を8月16日(金)に開催する。東京2020に向けて長期改修に入る日本武道館での、これが改修前最後の公演でもある。
「うれしいし、気合いも入っているんですけど、ぼくは性格的に、業界を背負ったりする人じゃないので(笑)。武道館で弾くのも10人のサロンで弾くのも、人前で弾くという心構えはそんなに変わりません。ただひとつあるとすれば、“武道館なんだからいいじゃん”って言えば大抵のことは通るかなって思ってます(笑)。ぼくは今までわりとアコースティックなバラード調の曲を求められていたんですけれども、“ロックとかやってもいいよね?武道館なんだから!”ってね」
そう。ジャンルにこだわらない音楽活動を続ける清塚だが、今回はそれをさらに突き詰めたチャレンジになりそう。予定曲目も、公演に合わせて7月にリリースした「完全にロックです」というバンド編成のミニ・アルバム『SEEDING』の収録楽曲はもちろん、オリジナルのソロ曲、クラシック、さらにはなんとピアノ10台による《第九》! 実に多彩。こだわっているのは「インストゥルメンタル(インスト)」だ。 「日本って、インストがヒット・チャートに入ってこないじゃないですか。それがすごい残念で。欧米だとヴォーカル曲の中にインストが、がんがんランク・インしてくるんですよ。だからインスト・ファンをゼロから獲得していきたいという思いがあって、アルバム・タイトルも『種まき』という意味の『SEEDING』。かれこれ10年以上やりたかったんです。でも、一緒にやりたいと思うメンバーがなかなか集まらなかった。それが去年から福ちゃん(福原将宜・ギター)たちと急接近して仲良くなって、最後のピースがはまった。縁ですね」
武道館にはその「SEEDING」のバンド・メンバーはもちろん、スペシャル・ゲストとして、バラエティ番組での共演でもおなじみ、「あらたまって言うのが恥ずかしいぐらい公私ともに仲が良い」というヴァイオリニストのNAOTOも出演する。「一生に1度聴けるかどうかというサウンドになると思います。とくに、10台以上のピアノが一斉に鳴る空間って、生きてるうちにそうは出会えないですから、楽しみにしてほしいですね」
「イベントでスタンディング・オベーションを強要される雰囲気とか、嫌ですよね」と笑う清塚。だからこそ、「一見(いちげん)さんにやさしいコンサート」を約束してくれた。その誘いに乗せられて、「初めてのインスト」を8月16日(金)からスタートするのは、絶対に楽しい。
取材・文:宮本明