現時点で“木村拓哉最良の表現”と言える、言語化不可能な顔

続いて登場した「ステップ」は、やはり沖田の部屋を訪れた深冬が、「わたしの患者をよろしくお願いします」と伝えた後、彼女を見送る沖田の顔である。

あの顔は、もはや言語化が不可能である。人間には、こんな顔をするときが訪れるのだ。いや、人間は、こんな顔を浮かべることができるのだ。さらに言えば、人間には、こんな顔を作り出す能力があるのだ、という理屈を超えた感動があった。

哀しみと、輝き。別れと、未来。ここでは、さらに抽象的なモチーフが、本来同居するはずもないもの同士が隣り合わせになって、一枚の「絵」を描きだしていた。

ここでも木村は「推移」に頼らない。さらさらと、あくまでも淡いタッチで、「絵」としての顔で、ヒロインを見送った。

この感動は、もはやドラマに従属するものではない。物語に奉仕するものでもない。キャラクターを際立たせるものでもない。

ただ、人間という存在の可能性と普遍性の証として、そこにあった。

わたしにとってそれは、現時点で木村拓哉最良の表現である。

『A LIFE』で木村は、沖田の顔つき、所作、佇まいに「予感」を宿らせている。

彼はもともと「含意」に富んだ演じ手だが、そのアプローチがこのドラマではきわめて有効に発揮されていると思う。

ホップ→ステップ→ジャンプは、その有機的な成果である。

彼の演技がはらむ「予感」に導かれ、わたしたちは画面を見つめる。

そうして、あの「ユリイカ」にたどり着いた。だからこその、名シーンなのである。

構築と飛躍。木村拓哉はいま、キャリア最高のときを迎えている。

連載<SMAP is ALIVE―SMAPは生きている>更新中!

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ライター/ノベライザー。「週刊金曜日」「UOMO」「T.」「シネマスクエア」などの雑誌、T-SITE、リアルサウンドなどのネット、日本映画の劇場用パンフレットなどに寄稿。楽天エンタメナビで週刊SMAP批評「Map of Smap」を3年5ヶ月にわたって連載。草彅剛主演作のノベライズ『嘘の戦争』(角川文庫)が3月10日に発売。