周囲に助けを借りよう!変化の時「孤独」にならないために

泉:私が乳腺炎で苦しんでいた時、夫が心配して、駅のホームから電話をかけてきてくれたことがありました。

「おっぱい先生の予約、取れた?」

と電話口で言った瞬間、周りにいた人たちが一斉に振り返ったそうです(笑)。

「おっぱい」という言葉は、男性や、授乳に関わりがない女性からしたら、まずはセクシャルな意味に聞こえると思います。

でも夫からしたら真剣なんです。もし助産院の予約が取れなかったら、妻が一晩中「痛い!痛い!」って、のたうち回って苦しむんですから(笑)。

私は夫からこの話を聞いた時に、すごく心がほわっとしました。

「“おっぱい”という言葉への、切実な気持ちを共有できた!」と感じたその瞬間に、夫婦として少し歩み寄れた、理解し合えた感じがしたんです。

――いろんな“翻訳”のプロセスがあって、通じ合えた瞬間!理想的なコミュニケーションですね!たとえ周りから「いったい何の予約してるの!?」とドン引きされたのだとしても(笑)。

『おっぱい先生』作者・泉ゆたかさんからのメッセージ

写真 浜村達也

泉:育児への理想は、私にもたくさんありました(笑)。

でも実際の毎日は、自分の不甲斐なさに落ち込んでばかりでした。

かと思えば、保育士さんに何気なく「〇〇ちゃん、いい子!」と子どもを褒めてもらったら「ああよかった、この育て方で大丈夫なんだ」といきなりホッとしたり。

赤ちゃんみたいに泣いたり笑ったり……。でも少し落ち着いてから、いろんな人たちの話を聞いてみると、「なーんだ、みんなそうだったんだ!」と、分かりました。

私たちは、ひとりではありません。助けてくださる方が、必ずいます。

「変化」がつらいのは、すべての人にとって当たり前のことだと思います。

だから「変化」の時はどうか「孤独」にならないで欲しいと思います。いま頑張っているママたちには、そうお伝えしたいです。

『おっぱい先生』作者・泉ゆたかさんへの前後編にわたるロングインタビュー、いかがでしたか。

私自身も友人から薦められて読んだ『おっぱい先生』ですが、ママからママへクチコミで広がりを見せているのみならず、医学専門誌『助産雑誌』(2020年11月号/医学書院)でも巻頭で紹介されるほど業界内での評価も高いのだとか。

短編集なので育児の合間に、「合間なんてないよ!」という方は赤ちゃんをちょっと預けての一人カフェ時間にぜひ。あたたかな涙をそっとぬぐえる、ハンカチもどうぞお忘れなく。

【取材協力】泉 ゆたか さん

1982年神奈川県逗子市生まれ。2016年に『お師匠さま、整いました!』で第11回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。19年に『髪結百花』が第1回日本歴史時代作家協会新人賞、第2回細谷正充賞をダブル受賞。他作品には『おっぱい先生』をはじめ『お江戸けもの医 毛玉堂』、『江戸のおんな大工』がある。

いずれの作品でも「働く女性」(※寺子屋の師匠、防水堤の建築家、吉原の髪結、獣医助手、助産師、大工、等)をテーマにする理由は、ご本人曰く「仕事でも育児でも、『誰かのために動くモードに変わるときの、人の姿』が好きだから」とのこと。

15の春から中国とのお付き合いが始まり、四半世紀を経た不惑+。かの国について文章を書いたり絵を描いたり、翻訳をしたり。ウレぴあ総研では宮澤佐江ちゃんの連載「ミラチャイ」開始時に取材構成を担当。産育休の後、インバウンド、とりわけメディカルツーリズムに携わる一方で育児ネタも発信。小学生+双子(保育園児)の母。