海宝が表現する品のあるメンフィス像
奴隷扱いしていたキャロルを「愛(う)いやつ」呼ばわりするなど“ドS”のツンデレキャラとして知られるメンフィスを、海宝は誇り高い人物として造形。伸びやかな高音が力強くも甘く響く歌声はファラオ(王)でありながらも高貴なプリンス然としており、品のあるメンフィス像を印象づける。
特に、2幕中盤でキャロルを救うために戦いへ赴く決意を高らかに歌い上げる「Wavering Mind」のラストは必聴だ。
考古学を愛するがゆえに、タイムスリップ先でも旺盛な好奇心で周囲を翻弄していくキャロル。演じる木下は、天真爛漫で“陽キャ”な彼女の魅力を振り撒くだけに留まらない。
「I’m not Your Slave」でメンフィスの傍若無人な振る舞いに強く憤ってみせたり、メンフィスと愛を確かめ合う「Love to Give」で恋人と生きる時代を異にする境遇に一瞬ためらったり、観客が劇世界へ没入・共感しやすいフックを設けていた。
新キャストの健闘によりさらにパワーアップ
出色だったのは、このゲネプロでアイシス役を務めていた朝夏による「Unrequited Love」だ。兄弟姉妹間での結婚が当たり前だった古代エジプトにおいて、異母弟と結ばれることだけを念頭に下エジプトを治めてきたアイシスは、キャロルを選んだメンフィスから強く拒絶される。
絶望の淵で歌い上げる同ナンバーでは、それでもメンフィスを愛し続ける一途な痛ましさを落ち着いた低音に滲ませた。
この日、隣国ヒッタイトの王子イズミルに扮していた大貫は、メンフィスの好敵手として妖しい色気を振りまく。特にキャロルの叡智と美しさに惚れ込み、巧みな話術で自国へ連れ去ろうとする艶っぽい表情はオペラグラス持参でチェックされたし。
持ち前の高い身体能力を活かしたメンフィスとの決闘シーンや、激情をほとばしらせる歌唱ナンバーなど見どころも多い。
新キャストの健闘によって、さらにパワーアップしたミュージカル『王家の紋章』。こうなると浦井メンフィス・平方イズミルをはじめとする続投キャストや、キャロルからアイシスへ役替わりした新妻のパフォーマンスも気になってくる。
4年ぶりの復活に、初演・再演を見届けた“王族”(作品ファンの総称)も新たな楽しみ方が加わったのではないだろうか。上演時間は約180分(休憩含む2幕)。