ウイルスのまん延や戦争、頻発する銃撃事件と、終末感がいや増しに増す今日このごろ。『風の谷のナウシカ』が発する人類への警告が、皮膚にめり込むように感じられる観劇体験だった。
皇女クシャナの存在をクローズアップさせたリニューアル版
2019年12月に新橋演舞場で初演された新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』は、大ヒットした映画版(1984年)が原作2巻までのアニメーション化だったのに対し、主演の尾上菊之助の発案で、全7巻分すべてを舞台化するという、壮大な企てのもとに行われたものだった。
全十一段で描かれる『仮名手本忠臣蔵』のように、それぞれの幕に見せ場を設けた全七幕を、昼の部(序幕~三幕)と夜の部(四幕~大詰)に分けて一日で上演するというスタイル。中身もたいへんな労作ではあったのだけれど、複雑な全貌を伝えようとするあまりに、逆に茫洋として、焦点がつかみづらい点が否めなかった。
今回は、この昼の部にあたる部分を再構成。小国の少女ナウシカとともに、大国トルメキア王国の皇女クシャナの存在をクローズアップさせた、リニューアル版の前編「上の巻」となっている。
戦争により文明が破壊されてから千年後。有毒ガス<瘴気>を発する菌類の森<腐海>には巨大化した虫<王蟲>が生息し、わずかに残った人間たちはなおも争いを止めず、トルメキア王国と土鬼(ドルク)諸侯国連合帝国の二大列強が対立している。
トルメキアと盟約を結ぶ辺境の小国・風の谷の族長の末娘ナウシカは、父に代わって戦闘に加わることを選び、最前線で戦う勇将でもあるトルメキアの皇女クシャナと行動をともにする――。