昔と変わらぬ人気店「眞味チプ」へ
西部市場で昔ながらの酒場に出合えて気をよくした私は、中央市場の近くにある懐かしい店を思い出していた。初めて訪れたのは20年前になる。
店の名は「眞味チプ」。真っ赤なコチュジャンソースをくぐらせた豚肉を練炭で焼いたテジプルコギが看板メニューだ。1976年創業だから韓国では老舗と言ってよい。
「眞味チプ」は昔と変わらぬ川沿いにあった。看板こそ垢抜けしたものに変わっていたが、昔の風情は残っていた。口開けと同時に店に入ると、先客が数組いる。変わらず人気店のようだ。
店の中央の焼き場に人が入った。息子さんとお嫁さんだろうか。バチバチという焼き音ともに香ばしい匂いが漂い始める。
看板に写真が載っているご主人の姿が見当たらない。この店は練炭コンロで焼かれる肉からのぼる火柱が見ものなのだが、かつてのような豪快さがない。防火に配慮しているのだろうか。
ソースの照りを少し残しながらこんがりと焼かれ、食べやすく切り分けられた肉が運ばれてきた。盛り付け方もサンチュの大きさもつきだしも昔とほとんど変わらない。そこにこの店の美意識が見える。
肉に生ニンニクをのせ味噌をつけたものをサンチュで巻いてほおばり、むしゃむしゃやりながらソジュを流し込む。肉の赤とサンチュの緑のコントラストがみごとだ。これぞ韓国の色彩。
しばらくすると、ご主人が焼き場に登場。トレードマークの赤いポロシャツは健在だ。とたんに火柱が高く上がり始める。この店では炎も味のうち。これで食欲が増し、酒も進む。
全州を訪れる日本の旅行者には、ぜひ「眞味チプ」を訪ねてほしい。旨い店は全国どこにでもあるが、昔のたたずまいを大事にしている店は少なくなりつつあるからだ。
全羅北道の中心都市・全州の旅は変わるもののよさと変わらぬもののよさを確かめる旅だった。
ソウル、釜山をリピートした人は、次の旅行地の候補に全州を加えてもらいたい。
※取材協力:全羅北道 文化体育観光局 観光産業課