SBNRとウェルビーイング、共通項は「内面の価値」


 

─── インバウンドと言えば、観光客が都心や特定の観光地に集中している印象もあります。

確かにそうかもしれません。日本の各地域には色々な文化があって、祭り、郷土料理、方言、考え方も多様ですが、どこか「都会」という大きな物が中心にある構図があったように思います。

実際、これまで「地方」という言葉は「都会からの距離が遠い」という意味で使われてきましたが、インターネットで都市と地域の情報格差がなくなった現代では「地方=ユニークネス」という意味に置き換えられる傾向にあります。地域の祭りや郷土料理は目に見えるユニークネスですが、方言や考え方の傾向など、目に見えない地方独自の個性もたくさんあります。

そういった「そのままの姿」を海外のSBNRシフトに合わせながら、きちんと再編集して打ち出していけるか。これも僕たちの仕事であり、工夫のしがいがあるところですね。

─── 都心と地方の二項対立構造ではなく、地域ごとの魅力をSBNRの視点から同等のものとして発信する。

日本は東西に長いので国全体で統一して何かやりましょうと言っても、北と南ではまるで地形も気候も社会風土が違います。その土地ごとの自然環境に対応した独自の風習や文化が生まれ、現代まで地域文化として続いてきています。

前半でお話ししたように、日本が高度経済成長した際に、急速に都市化が進み、地方の中小都市が衰退してしまった時代もありましたが、今こそ全国津々浦々に存在している地域の多様性を守り抜き、それを日本全体の本質的な強みとして広めていきたいですね。

─── SBNRについてお話をお聞きするなかで、「ウェルビーイング」とも似ているように感じました。

SBNRは精神的なシフトに対する社会現象指標であるのに対し、ウェルビーイングは更に人の内側に寄った「本当の自分の力を引き出していくための行動指針」だと思います。

SDGs目標は、ウェルビーイングな社会づくりを後押ししていますが、最近ではIDGs(Inner Development Goals=内面の成長目標)という考え方も広まってきています。SDGsは「この数値を何パーセントにしましょう」といった指標ベースのアプローチが多いですが、生活様式や価値観をより共生型に変えてゆくためには、まずは心のシフトが大切です。IDGsは、SDGsを実現するために必要な私たちの内面成長の要素をフレームワーク化したものです。

SBNRやIDGsをはじめ、今後も「人間の心に寄り添った社会環境を作っていきましょう」という考え方は加速していくと思います。その風向きをどれだけ早くキャッチして伝えていけるかも、私たち価値デザイナーや、メディアの腕の見せどころですね。

編集:林 慶