いい意味で予想を裏切る、予想すればするほど、そのようには進まない映画
――二度目の酒井監督の現場はどうしたか。
細部にまでこだわる方なので、その絶妙な塩梅に合わせていくのが難しい時もありました。今回、酒井監督のオリジナル作品ということもあり、「これは監督の求めるものになっているんだろうか?」と演じていて心配になることもありました。
後々、他の共演者の皆さんとお話する機会があり、皆さん同じ状況だったとおっしゃっていたので、そのときは、「良かった。僕だけじゃなかったんだ」って、少し安心しました(笑)。
――ご自身で完成作を観たときはどう感じましたか。
前半と後半で与える印象が全然違うなと。とはいえ、それを狙ってやっている感じではないんですよね。たぶん、観客の方からすると、「この映画はこの方向性で見ればいいんだ」と思ったら、次の瞬間、それが覆って、予想していたものがさらにまた違う方向に行く、結構、ジェットコースターな展開だなって思うんじゃないですかね。
脚本で読んだときよりも、映像の爽やかさが加わることで、さらに落差がある作品に仕上がっているなと感じました。いい意味で予想を裏切る、予想すればするほど、そのようには進まない映画になっていると思います。
――確かに前半と後半の印象は全く違いました。
護は後半から登場するので、前半部分の撮影はどんな感じかわからなかったから、観てみたら、爽やかで、軽快で、楽しそうで。撮影期間中、1、2日ぐらい、前半パートの出演者の方々とメイク室ですれ違ったんですが、そのとき、僕の姿を見て「同じ作品を撮影しているとは思えない」って言われました(笑)。
――ご自身の中で印象に残っているシーンは?
いくつかあるのですが、ネタバレにならないようなことで言うと、固い床に寝たのは印象に残っています。埃っぽい場所だったので、撮影のあとに鼻や耳を掃除したら真っ黒になりました(笑)。
――中川さんとは現場で何かお話はされましたか。
「久しぶりだね」とかは話ましたが、そんなにコミュニケーションは取れなかったんですよね。大志くんも樂の雰囲気を保ったまま現場に挑んでいた感じもしたので、深い話をすることはできなかったです。
――護と樂が対峙するシーンもありましたが、あの場はどんな雰囲気でしたか。
そこもまた難しくて(苦笑)。あの場に僕が居たとしたら、相当怖いと感じたと思うんですけど、護を通すとそれをあんまり表現できないっていう。護はそこまでの危機感を抱かないし、僕なら疑問に思うようなことも口にしないし。本当に不思議なんですよね、護って。
――本作は「不器用に、でも一生懸命『今』を生きるヒロインたち」を描くプロジェクト「(not) HEROINE movies」の第4弾として制作されましたが、チャチャというヒロインからはどんなことを感じましたか。
周りからは変わって見えて、「才能があるように見せたいんだよね」と思われているんですけど、本人はそんな気はさらさらなくて、天然でやっていること。だけど、そう思われてしまうのは、見えている世界が違うだけなんですよね。
コミュニティが狭いから、そこに居ないタイプの人を「変な人」と思ってしまうだけで、世の中、一歩外に出てみたら、そうやって「変な人」とくくった人はたくさん居るし、いろんな価値観が存在する。結局、正解なんてないんですよね。
チャチャからは、周りに無理に迎合することなく、自分らしくいていいんじゃないか、ということをすごく感じました。だから、自分なりの価値観を持っている人には、より刺さる作品になっているのかなと思います。