自分のナチュラルな部分が切り取られていた

――リクは別の世界に行って、驚きから入って、そこから様々な感情を抱きながら変わっていきます。その変化は演じるうえではどのようにとらえていましたか。
中島:微調整の連続だった気がします。僕は最初、ミナミと結婚している世界ではちょっと嫌な奴っぽく見せて、別の世界に変わってからは、すべてのことが上手くいかなくなり、徐々に失っていた優しさを取り戻していくという、わかりやすく記号的に演じていこうと思っていたんです。
でも、監督から、最初の段階を「そんなに嫌な奴にならなくていい」と言われて。自然な会話の中で、恋人同士や夫婦の間で起きてしまう摩擦を表現すればいいとなったことで、僕はちょっと答えがわからなくなってしまった。
ただ、答えがわかってしまうことが、この映画では正解ではないのかもしれないとも思って、夫婦喧嘩のシーンとかは監督の言葉を信じて、自然体で演じさせてもらいました。
そしたら今度は、世界が転じてしまったあとはどう演じていけばいいんだろうと。そのときに、監督から「大人になったのび太くんみたいな感じ」と言われたんです。
正直、それもどうすべきなのか、わからなかったんですけど、考えてみると、リクはいろんな状況が変わってしまったことに対して奔走はするけど、順応はできなくて。でも、周りの人たちから力を借りることで、徐々に新しい世界で生き抜く力をつけていく。それがきっと肝なんだろうなって。
だから、全体を通してどうグラデーションをつけていくかってことは、実はあまりしていなくて。1シーンごとに感じたことを、そのまま抽出していったという感じです。監督が広げてくれた風呂敷の上で、役として生きれたという気がします。
細かい部分に関しては、監督だけじゃなく、実はキリケンさんにも相談していました。撮影が終わった後、その日の深夜に電話で「今日のこのシーンはどうだった?」「明日のこのシーンはどうする?」とか。そういう話をすることもできたので、自分でわからないところも軌道修正をしながら演じることができました。
――そうやって演じたものを、完成作で観たときはどう思いましたか。
中島:あまりにも自分のナチュラルな部分が切り取られていたので、いい意味で恥ずかしいです(照笑)。すべてをさらけ出してしまったというか。それこそ、本当に裸になれた作品だと思ったので、観ていただく方に対しては「一旦、お見せしますけど、いかがでしょうか?」という感じです(笑)。