産後1年までの死亡原因は「自殺」が最多!

村上:マスコミ各社が2018年9月「成育医療研究センターが2014~2016年における産後1年までの死亡原因を調べたところ『自殺』が一番多かった」というニュースを報じました。

「自殺」が、妊娠中と産後も含めると100人、産後は92人いるんですね。

しかも海外に比べて、妊産婦の死亡は少ないんですが、日本は産後、自殺する方が非常に多いというデータもあります。

「産後うつ」はいま10人にひとりくらいがかかり、そんなに特別なことではありません。育児不安やストレス、過去の「うつ」の経験、妊娠中の不安が要因になったり、あとサポート不足も原因になっているんじゃないか、という取り上げられ方をしています。

細かいデータを探したのですが、ちょっとぴったりするものがなかったので、これは東京23区の2005~2014年、10年間の妊産婦の異常死についてのデータです。

村上:出生数と比例したカーブを描いているんですが、注目してほしいのが、30代の方にピークが来ていること、出生数は20代後半~30代前半にピークが来ているんですけれども、自殺した例はそれより後にピークがきているんですね。

あと、ほかの国と比べて、なのですが。

村上:妊産婦の死亡率、イギリス3.7、スウェーデン4.7、日本は出生10万体あたり3.96、優秀ですよね。

それに比べて、自殺率を示す赤字の値の違い。どうしてなんだろう、と思っちゃいますよね。

女性は「うつ」になりやすい。男性の2倍だそうです。どうしてかというと、よく言われるのが、女性は社会的にいろいろ厳しい立場にあるとか、環境に影響されやすい。

あと、女性ホルモン、エストロゲンが低下する時期というのは、たしかに「うつ」になりやすい時期です。産後は特に分かりやすいです。あとは更年期もそうですね。

でも、私が今日、それ以外に言いたいのは「栄養」なんです。特に「鉄」が足りない。これが「うつ状態」を引き起こす、大きな原因なんじゃないか。

どうしてか?というと、生理が多すぎる。毎月毎月の生理がどれだけ違うかというと、表のオレンジ色のところが月経のある期間なんですね。

村上:昔は、生理が始まって、18歳くらいで産み始めて、4~5人産みます。うちの父方のおばあちゃんは11人くらい産んでますが、だからほとんど生理がないんですよね。

いまは初潮ももうちょっと早いし、出産も、ここでの例は20代後半でひとり産んでらっしゃいますけど、30代で産む方だってざらにいます。月経がある時期がものすごく長くて、生涯、一生のうちの月経回数が昔は50回だったのが450回、9倍くらいになっちゃってます。

それで昭和22年と現代を比べてみて、どれだけの鉄が失われるかというと、生涯で、昭和22年当時の女性は「4g」。

1回の出産で500mgの鉄が失われます。それから1回の生理で30mgの鉄が失われます。生理1回あたりは少ないようですけれども、これが450回もきたら、鉄がトータルで「14g」も取られちゃうんですよ。大変な鉄不足です。

ところが、ですね。外来でクリニックに来るお嬢さん、あともうちょっと年配の奥様も、みんな「昔から貧血なんですぅ」って自慢されるんですね、貧血なんて自慢している場合ではないです。

「うつ」になっちゃいます。

本当の「うつ病」なのか、それとも鉄不足による「うつ状態」なのか、症状は一緒なので区別はつかないんですよね。なので、そうならないために、早くから鉄を取って、妊活にはまず鉄を取れと。妊娠中も産後も、しっかり鉄を取っておけ。それが大事なんです。

一般的な貧血の検査はヘモグロビンの値でみるんですけれども、ヘモグロビンが下がってくるのには、鉄の貯金にあたるフェリチンという物質がそこまで下がってきて初めて、ヘモグロビンが下がってきます。減る順番は、貯金(フェリチン)が減って、貯金が底をつくと、お財布の中の現金(ヘモグロビン)がなくなってくる、という順番ですね。

なので、ヘモグロビンが正常でも、すでに貯金が目減りしている人がすごく多いんです。

村上:鉄が少ないと「うつ」になるという理由を分かりやすく説明すると、ドーパミンとかセロトニンとか、大事そうな神経伝達物質がたくさんあります。あと睡眠に関わるメラトニン、これらを作るのには、タンパク質からいろいろな酵素を経て作られるんですが、そこに鉄が絶対に関わってきます。鉄が少ないと、この経路がうまく動きません。

特に産後の栄養で「いいおっぱいを出すにはお肉なんか食べちゃダメ、油を抜かないとダメ」というような指導が、いまだにされているんですけれども、炭水化物が多過ぎて脂肪が少なすぎるというのは、これも「うつ状態」につながる栄養不足を招きます。

炭水化物が多過ぎると、血糖値が上がったり下がったりして、上がった時は一瞬楽しいんですけれども、下がった時の落ち込みようといったら、本当に気持ちが落ち込んでしまう方も、なかにはいらっしゃいます。

それから、甘いものをたくさん取りすぎると、腸内細菌のバランスが多少変わってですね、腸内細菌の変動によって、気持ちが変動するというのも最近知られています。

あとは“愛情ホルモン”とか“信頼を高めるホルモン”とかいわれるオキシトシン。これは炭水化物だけ取った時よりも、タンパク質、脂質を取った方が放出が活性化される、というデータも最近の研究ではあるそうです。

なので、産後の栄養、それから精神的な問題を含めて、皆さん、鉄を取りましょう。動物性のタンパク質から取る鉄が、一番吸収率がよろしいです。

妊活、それから妊娠中、産後も鉄を取って、鉄不足による「うつ状態」を防ぐっていうのは、病院に行かなくても、自分で、健康に、心がけてできることですよね。これを聞いてほしいと思ってお話しました。

人類史から考える「旅」

村上:後半では、人類史から「旅」を考えてみたいと思います。

人間って、もともとサルのようなものから、チンパンジーと分かれたのが700万年前から500万年前くらい。そこからだんだん進化していって、ホモサピエンスになったのがようやく20万年前くらいだそうなんです。

途中で絶滅してしまった種族もいくつかはあるんですけれども、だんだん増えてきて、700万年ずーっと進化し続けて、アフリカからヨーロッパ、アジアの方へ広がっていった、という歴史がありますよね。

何の話をしたいかというと、700万年前から、どうやって暮らしていたかということなんです。

つい最近、私たちは定住生活、米とか小麦を作って生活をし始めたワケですけれども、それは700万年の歴史から見たらほんのちょっとの時間なんですよね。

つまりそれまでは、700万年の時間ずーっと、移動して暮らしてきた生き物です。

どんな感じで暮らしていたかというと、大体10人ぐらいの家族的なグループで、ウロウロしていた。この時代の人は、食べ物をその地で得るには、ひとりあたり1㎢必要なんだそうです。

東京の、山手線に囲まれたエリアが大体65㎢くらい。そうすると大体60人くらいの初期人類が賄われる。

10人くらいで1グループとして暮らしているとすると、例えば品川の辺りにいて、東京駅の辺りにいて、日暮里の辺りにいて、巣鴨の辺りにいて、新宿の辺りにいて、目黒の辺りにいて・・・この人たちが1日に10km程度ウロウロ動き回って、その辺の昆虫とか果物とか、根っこ掘って何か取ったりとか、そういう生活をずーっと、700万年前からやってきたワケですね。

そうすると途中で当然、出産もありますので、出産の時はさすがにそんなに動き回らないで、どこか安全な場所で赤ちゃんを産んだと思うんですけれども、でもそこで留まっていれば食べ物もなくなりますから、当然、赤ちゃんを抱っこして“おっぱい”をあげながら「じゃあ次の場所へ行こうか」という生活をおそらくしていたと思うんです。

村上:それに近い、私たち哺乳類の遺産・記憶として「輸送反応」って聞いたことあるかと思うんですが、ネコやネズミが首の後ろを捕まえると丸まって静かになりますよね。移動中は敵に狙われるといけないので、静かになるんです。丸まって、動かないで、お母さんの邪魔にならないよう小さくなりますよね。

サルの赤ちゃんなんかだと自分で捕まってくれますけど、人間の赤ちゃんも同じですね。抱っこして動き回ると赤ちゃんが泣き止むというのは、この、むかーし、動き回って、敵から逃げる時に「静かにしてなきゃ」っていう「輸送反応」が残っているからです。

ちなみに、泣き止ませる時にはやっぱり、大股で、少し早歩きをした方が泣き止みますね。

村上:最後に・・・アフリカの大地で赤ちゃんを抱っこして“おっぱい”をあげながら、歩いていた初期の人類の姿が、皆さん、見えるでしょうか。ぜひ、見えてほしいです(笑)

――村上先生の最後のスライドに、会場からは拍手喝采!

村上:ところで今日は、初期人類ではありませんが(笑)旅好きのママさんたちも会場にお越しくださっています。客席でおっぱいをあげながら講演を楽しんでいただいていたので、ちょっと壇上へお願いしてお話を聞いてみましょうか。

――すると客席から、何人かのママが赤ちゃんを抱いてステージへ歩いてゆくではないですか!

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