プロレスラーに「強さとは何か」を問う連載をまとめた本『最強レスラー数珠つなぎ』(イースト・プレス)が、じわじわと話題を集めています。
インタビューを受けたレスラーが次のレスラーを指名する、まさに数珠つなぎの仕組みで、総勢20名が持論を語っています。
本書で紹介されているレスラーの中から、私がプロレスビギナー女性に対し、とくに推したい素敵レスラーをピックアップ。さらに著者の尾崎ムギ子さんから、各レスラーへの思いを伺いました。
陰と陽の強さを併せ持つ、関本大介選手(大日本プロレス)
関本選手は「強くてカッコいい」を象徴するレスラーのひとりです。プロレス観戦2回目にして、初めて関本選手を目にして、その魅力に心をわしづかみにされました。
理由のひとつは、「この人は明らかにレスラーだな」とひと目でわかる、立体的で分厚い肉体がリアル・キン肉マンのようだから。これ、大袈裟な表現ではありません。
「マッスル・モンスター」というあだ名を持ち、その鋼のような肉体を武器に相手にぶつかりにいって、軽々と抱えたり、投げ飛ばしたりと、パワーファイターとしての闘いを見せてくれる関本選手。
プロレスは相手の技を受けることが前提。関本選手は技を受けるときも、見る者の目を釘付けにします。ハードな技をたくさん受け切って、最後に重い一発で仕留める。その力強さや動きは技に説得力をもたらすのです。
著者の尾崎さんは関本選手のことをこう語ります。
「2016年夏に見にいった大会で、関本選手はとても印象的でした。メインイベントまで出番がなかった関本選手は、試合が始まっても動かず、ずっとその場に立っていたんです。自分の出番になるまでずっと、光の当たらない売店にいるなんて。
トップレスラーと呼ばれる人は何人もいて、関本選手もそのひとりです。でも、暗がりで売店に立ち続ける強さと、華やかなリングで豪快な技を繰り出す強さという、陰と陽、ふたつの強さを併せ持つレスラーはそうそういないと思います」
どんな相手と闘っても、その試合を「記憶に残る一戦」にし、帰路に「ああ、今日観にきて良かったな」と思わせてくれる。そんな選手です。
一瞬たりとも目が離せない名試合を作る。鈴木秀樹選手(フリーランス)
大日本プロレスを中心に、国内外からオファーを受け、いろいろな団体のリングに上がる鈴木選手。フリーランスで大活躍しています。
マイクパフォーマンスやTwitterでの発言、連載などは、ウイットに富んでいて、知的さが垣間見えます。頭の良い人なんだろうな、と思わされることが多々。
闘いのスタイルは、とても硬派な鈴木選手。飛んだり跳ねたりといった、派手に見える技ではなく、正統派なレスリングで魅せると言っていいでしょう。
初めて鈴木選手の試合を見たとき、レスリングにまったく詳しくない私でも、「なにこれ、すごい…」とリング上で淡々と冷静に、相手の上のポジションをとる姿に見入ったのを覚えています。
鈴木選手は同書のインタビューで、強さとは何かという問いに対して、こう答えています。
「継続することだと思います(中略)いつでもすごい試合を見せられる。そういうのが強さだと思います。格闘技に関わらず、なんでも続けられることが強いんじゃないかなと。最終的にはそっちが勝つと思います」(117ページより引用)出典(『最強レスラー数珠つなぎ』)
これは鈴木選手自身にあてはまるだけでなく、先にご紹介した関本選手にもあてはまる要素。ふたりは幾度も名勝負を繰り広げています。
尾崎さんはそんな鈴木選手のことをこう語ります。
「鈴木選手は生まれつき、右目が見えないんです。インタビュー前にそのことを知って、幼少期のことを聞くのを控えようとしました。レスリングの名手には、レスリングのことを聞くのが正しい。そう思ったんです。
でも実際にお会いした鈴木選手は、とても陽気で気さくな方で、右目についても事もなげに『そう、見えないんですよ』と話してくださった。その明るさと余裕こそが、鈴木選手の強さだと感じました。
”人間風車”ビル・ロビンソン氏から確かなレスリング技術を学び、『殺し屋』と呼ばれるほど、ときに非情な闘いをします。相手選手が可哀相になってしまうくらい、徹底的に潰しにかかる。闘うということの原点を見ているような気がします」