先住民の女子会に飛び入り参加
割包を食べているうちに、また雨が道路を打ち始めた。せっかく早起きして田園の写真を撮りに行こうと思ったのに。
食べかけの割包をビニール袋ごとカバンに入れて、自転車にまたがった。10分も走れば町はずれの田園にたどり着ける。
ママチャリを力強くこいだが、雨脚がどんどん強くなってきた。叩きつけるように落ちてくる雨。田園にたどり着いた頃にはずぶ濡れである。
のどかな田園風景はあきらめて、駅方面に戻ることにした。強くなったり、弱くなったりする雨の中、幹線道路脇でえっちらおっちら自転車を走らせていると、時折が水しぶきを上げクルマが通過する。
車をよけながら立ち止まると、そこに廟の門があることに気づいた。
道路から奥まったところに、それほど大きくはないが、古い赤茶けた門がある。こぢんまりとした関山という町にふさわしい天后宮だ。
その脇には食堂があるのだろうか、数人の女性たちが座って話している。
雨に打たれて凹んでいたのだが、ここでも捨てる神あれば拾う神あり。丸テーブルを囲むようにしておしゃべりをしている4人の女性は、私よりも少し年上らしい。
でも、テーブルが置いてあるだけで、食堂という雰囲気でもない。ちょっと遠巻きに観察していると、女性の1人が私に気づき、にっこり笑ってきた。渡りに舟だ。
「朝ごはん中ですか?」と聞くと「そう、これからよ。あなたも座る?」と言う。
しかも、丸テーブルの上には保力達(パオリータ)の茶色い瓶が置いてあるではないか。養命酒を濃くしたような味で、アルコールが10パーセントもある。
肉体労働者に愛されている栄養ドリンクの一種で、台湾東部ではこれにビールや米酒(焼酎)を加えて飲む人がいる。
日本から来たと伝えると、4人とも顔をほころばせて乾杯の始まりだ。
彼女たちは先住民で、みな近くの町から関山にお嫁に来たらしい。関山に嫁いだ女性の同期は10人ほどいて、ときどきこうして朝食会を開くのだとか。
会話を聞いていると、北京語(台湾華語)が2割ほど、あとは阿美(アミ)族の言葉で話している。
台湾には先住民の部族は20近くあり、それぞれに言葉も違うのだが、ひとつだけ私が聞き取れる単語があった。「マラサン」とう単語だ。
以前観た台湾映画で「マラサン」というブランド名の粟の酒が出てきた。先住民の彼女たちいわく、「マラサン」は「酔っ払う」という阿美族の言葉なのだそうだ。
「女はマラサンになるほど飲んではダメ」と言って、ほどほどに乾杯するという意味の「メナン」という言葉を教えてもらった。
それでも、メナン、メナンと少しずつ飲んでほろ酔い気分。「阿美族の嫁の会」に飛び入り参加した私に、彼女たちは卵焼きと魚のスープもごちそうしてくれた。
お酒が入り、料理が胃袋に収まるにつれて、みな饒舌になり、まるで女子高校生のようにケラケラと笑いながらおしゃべりに花を咲かせる。
「夏には阿美族の豊年祭があるからまたいらっしゃい。阿美族の衣装を着させてあげる」と、魅力的なオファーもいただいた。
小雨になった空の下、宿まで自転車を押しながら歩く。
田園風景は見られなかったが、素敵な女子会の余韻にひたり、私は上機嫌だった。