ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』が9月9日(木)に開幕する。
本作は、世界的に有名な未解決事件として恐れられた殺人犯・通称“ジャック・ザ・リッパー(切り裂きジャック)”をモチーフにチェコ共和国で創作されたミュージカルを原作に、韓国独自のアレンジを施し大人気作となったミュージカルの、日本初演。
白井晃が演出を手掛ける本作で、刑事アンダーソン役と殺人鬼ジャック役を回替わりで演じる加藤和樹と、新聞記者モンロー役を演じる田代万里生の対談を前編・後編でお届けする。今回はその前編。
稽古場はカオス!?
――現状、全シーンの大枠はできて、細かい部分のブラッシュアップに入っているそうですが(取材時)、どんなお芝居になりつつありますか?
加藤 カオスです。
田代 ははは!
加藤 僕は韓国でこの作品を観たのですが、その時の印象よりもものすごく深い物語になっています。韓国版はショーアップされた楽曲などもありましたが、白井さんのつくり方はそれとは違い、お芝居ありきの音楽というか。
ミュージカルよりも音楽劇に近いイメージ。“お芝居をしている”という作品になりつつあるなという感覚です。
――音楽劇に近いというのは。
加藤 もちろんこの作品は楽曲の素晴らしさも魅力なんですけど、その中で白井さんがおっしゃるのは――これは当たり前のことかもしれないですが、“急に曲が流れるのではなくて、役者がそこにいるから音楽が流れ出す”ということです。
そういう“心情が伴う流れ”が見えないと、お客様もついてこられないので。そういう意味で、“音楽がここにある”というような芝居だなと感じています。
田代 和樹くんが韓国で観た時に、ジャックのナンバーはライブみたいだったと言っていたのですが、白井さんの演出はそれとは相反するような、お芝居に音楽が共存しているようなイメージです。
ショーアップされて振付も決まっていれば、固まるのは早いんですけど、白井さんは「こういう動きをしてほしい」というよりも「こういう気持ちでいてほしい」という演出で、時間をかけてじっくりと積み重ねているような感じです。
――脚本を読ませていただくと、じっくり向き合う稽古は精神的にきつそうだなと感じますが、どうですか?
田代 和樹くんは2役演じるから、役によるんじゃない?
加藤 精神的にきついのはアンダーソン(切り裂きジャックの連続殺人事件を追う刑事)ですね。彼は抱えているものが多いんです。それはポリー(アンダーソンと思いが行き違う娼婦)のこともそうですし、ロンドンという街に対しても思うことがありますし、自分の存在意義みたいなものもそう。
さらに、ジャックの事件を追う立場ではあるのですが、そこへの自問自答みたいなものがあるんですよ。アンダーソンの歌に「何のために追いかける?」というような歌詞もありますが、そこをすごく迷っている。そういうものが常に心にあるような役ですね。